STATEMENT作品について

絵を描くようになり、言葉に表せないもの、その余白、奥行きに目を向けるようになった。感じている物には形はなく、こういう感じというものがあるだけである。しかし確かに「ある」と言えるだろう。絵の世界は、いわゆる絵空事、幻想ではなく、感じているその人の中にある。物質として目には見えなくとも感覚として存在しているのだ。色と形を伴い平面としてこの世に生まれることが絵画として作品化するということであると考えるが、絵画はまた、平面という時間の概念が無いものに、絵具と支持体という物質を得ることによって物化する。個人の瞑想の世界が物質としてこの世に存在すると言ったらいいだろうか。そして量子力学的には事物には全て見えないほど繊細な振動がありその振動を発しながらそれぞれは影響し合っているという。世界のすべてのものが関連し、共鳴し合いながら息づいている。この世界において、日々の生活の中から様々なものを感じ、考えながら人々は生き、ある時は死の場面にも出会う。

私の制作は、できるだけ無意識を心がけながら色を選び、
時には目を閉じたり体をできるだけ自由に動かしながら
体内に流れる音楽やリズムに沿って筆を動かす。

その行為によって支持体に現れた空間に、
私が自然や人とのふれあいの中で感じた「素」のようなものと
共通したものを見つけ、それをきっかけに絵画として形作っていく。

私という概念的意識が判断している世界は狭く、
本来世界は様々なエネルギーに満ち溢れ循環している。

その取り巻く環境に耳を傾け、見つめ、携える。
それは本来人が体の中に取り込み、

生きていくうえで大切な糧であったのではないか。
またそれを感受する心の領域は個々人の聖域であろう。
絵画という平らで時間の制限の無いものは無限の空間であり、

また色という光によって生まれたものを用いることで、
心の無意識の状態にまで光をあてる。

私はできるだけそのものが無理なく形作ることに集中し、
私が見つめる様々な事物の素となるものを作品を通して鑑賞者と共有したい。

齋 悠記