text連載「落ち穂」

2021.02.02 『自然に聴く』

先日、43回目の誕生日を迎えた。よく晴れたその日は、密を避けて外に出るのも良さそうだ。久しぶりに会いたくなって娘が好きなイルカや海亀が見られる場所へ出かけた。水面をぴょんぴょんと跳ねて遊んでいるイルカの姿、覗き込むとゆっくりと旋回して近づいてきてくれるカメ殿。頭を軽く触らせてもらい新年のあいさつ。何ともしみじみありがたい。こんななごやかな時間を待たせてもらえていることに心から感謝したい。

あと43年は生きたいものだと呑気だが、また一から始められる気持ちになる。2021年+43年=2064年、何という数字だろう。しかし娘は今5歳。この子は2100年の世界を見るのかもしれない。その世界とは一体どんな世界なのだろう。ガソリン車は生産停止、ハワイではコロナの影響で観光客のいなくなった海で日焼け止めの海水汚染が減り、日光が海底までよく届くようになったおかげで珊瑚の成長が著しいという。

人間がいなくなった街や水路に踊り出した動物たちの姿。インドでは今までスモッグでけぶって見えなかったヒマラヤ山頂がすっきりと見えるようになっていた。人間がどんなに傲慢に自然を壊してきたかがよくわかる。

そしてその自然の本来の姿を映した光景というのは心から喜びが湧き上がるようなものであった。思いやりと慎ましやかさに彩られた深い喜び。私たちがしょうがないと目を瞑ってきた情景というのは、知らないうちに私たちに諦めと怠惰を植え付けていたのかもしれない。環境にいいこと、いい商品というのは今までたくさん開発されてきたが、今ほど必要とされているときはないだろう。もうファッションや一部の人だけのものではなく、地球で暮らす上で最低限のマナーなのだろう。

物事はそんな単純ではないというのなら何から変えていけばいいのか。私たちの日常の選択、消費がカギを握っているように思えてならない。たった一年でこんなにも世界が変わり始めている。私も慣れきってしまった今の生活からひとつひとつ変えていきたいと思う。

提供:琉球新報